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第78話 インベスターズノベルズ『キャンパストレーダー隆輝編④ 僅かな光・・特殊犯罪対策班(トクハン)の存在』

アパートの床に座り込んだ隆輝は、スマホから流れる「ツーツーツー…」という無機質な電子音を呆然と聞いていた。失ったものは学生ローンと貯金、そして追証のための闇金からの借金、合計169万円だけだと思っていた。しかしたった今、彼は人生の「最も大事な資本」である真奈というかけがえのないものを闇のレバレッジによって奪われたのだ。

隆輝は冷たい床に頭を打ちつけて呻いた。彼は株式投資のビギナーズラックによってもたらされた過信により哲学を馬鹿にし、経済学の数字だけを信じた。合理性こそが全てだと盲信した。その結果、人間性という最も測り難い価値の破綻を招くとともに、愛する人を金銭の道具として差し出すという最も避けなければならない行為を無意識のうちに選んでいた。

どれほどの時間が経っただろうか。隆輝はコーヒーのシミがついたテーブルの上で、震える指でパソコンを操作した。感情的に喚いても真奈は戻らない。闇金からの逃亡と真奈の救出策。通常の警察では証拠集めや手続きに時間がかかりすぎるだろう。一刻を争う状況でそんな悠長なことは言っていられない。彼は警察組織の情報を、独自のコードを引きつつ調べていた。これは隆輝が通うゼミの教授の教えである『常に相手の隙をついて裏をかけ』を従順に守った結果であった。まるで過去の失敗から教訓を得ようとするかのように膨大な情報を貪り読んだ。サイバー犯罪対策、組織犯罪対策、そして辿り着いたのが「特殊犯罪対策班『トクハン』・・。

隆輝の目に飛び込んできたのは、通常の捜査では手が出せない違法な金融取引や特殊詐欺を扱う警察庁直轄の特殊犯罪対策班、通称『トクハン』の存在だった。その説明文には「金融犯罪の専門知識と迅速な実動捜査を両立する精鋭部隊」とあった。これだ!!これこそが「闇金と対峙出来る可能性がある究極の裏ルート」だ!!

隆輝はとある弁護士のウェブサイトに掲載されていた「トクハンに繋がる匿名の情報提供窓口」のリンクをクリックした。指が震えて誤字を何度か修正しながら、彼は身が闇金から借り入れた経緯/追証の金額/そして真奈が「借金の担保」として連れ去られた経緯を、まるで投資家が企業分析をするかのように冷静かつ詳細に記述した。感情を排して事実のみを羅列する。それが今彼にできる唯一のことだと信じたからである。

情報提供から数分後、隆輝のスマホに着信があった。画面に表示されたのは、先ほどの不気味な闇金の番号とは対照的な警察庁の公的な市外局番。一瞬詐欺ではないかと疑うが、この状況でそんなことを言っている暇はない。隆輝は深く息を吸い込み応答ボタンをタップした。

「もしもし、佐藤隆輝さんですか??こちら警察庁・特殊犯罪対策班、通称『トクハン』の班長、黒田と申します。あなたの入力された情報は極めて信憑性が高いとこちらで判断しました。」ーと力強い男性の声が聞こえてきた。

新藤真奈さんが闇金組織に拉致されたとのことですが、ご安心ください。真奈さんを必ず取り戻します。あなたがすべきことはただ一つ。我々の指示に従うことです。

黒田班長は隆輝の返事を待たずに続けた。「まず隆輝さんはアパートから離れず、携帯電話の電源を切らないでください。これから我々が動く上での重要な情報提供者となってもらいます。現在地から動かないように。いいですね??

隆輝は絶対的な『正義』の力を感じた。これは信じるしかない・・。震える声で絞り出すように答えた。

「…ありがとうございます。原因は全て私です…。真奈を…助けてください。」

「分かっています。もちろん今は真奈さんの救出が最優先だ。正確な情報が欲しい。君の個人的な感情は今は一時的にしまっておけ。」

黒田班長の言葉は厳しかったが、その奥には確かな頼もしさがあった。隆輝は彼の指示に完全に委ねることを決意した。

隆輝からの情報提供を受け、『トクハン』は即座に動き出した。夜の帳が降りた都心のビルの一室。黒田班長を筆頭に、精鋭のトクハンメンバーたちが集結していた。

「隆輝君からの情報だ。闇金が使用していたURL/振込口座情報/そして『担保』というキーワード。これらを複合的に解析した結果、複数の容疑者が浮上した。恐らく彼らは新宿の雑居ビルにある複数のフロアを拠点としている。

黒田班長の指示が飛ぶ。隣に座る女性捜査官である大空涼子が素早くPCを操作し、隆輝が提供した情報を元に闇金のネットワークを解析していく。

「振込口座の名義人はダミー。しかし、最近の送金履歴から現金化された金の流れを追跡しました。新宿の歌舞伎町にある数店舗の違法カジノが資金洗浄に使われています。それとこのURL、サーバーの足跡を辿るとどうやら池袋のレンタルオフィスを経由しているようです。ただし、池袋は恐らくダミーでしょう。

涼子の報告は淀みない。彼女はデジタルフォレンジックの専門家だ。その冷静沈着な分析能力は複雑な闇金のシステムを解き明かす上で不可欠だった。

「よし。各班、新宿歌舞伎町の違法カジノを警戒せよ。そして、隆輝君から得た情報とこのデジタルデータから割り出した可能性の高い拠点を特定する。真奈さんの拘束場所は特定できていないが、容疑者グループが最も警戒を緩めているタイミング、つまり深夜帯を狙う。今夜中に真奈さんを保護する。そのためには一刻も早く実動班を動かす必要がある。

黒田班長は地図を広げ、指で新宿の一角を指し示した。

「隆輝君、聞こえるか?」

隆輝のスマホから、黒田班長の声が響く。

「はい…聞こえます。」

我々がこれから行う作戦の情報を共有する。君はアパートから動かず、我々の指示を待て。真奈さんの安全を最優先するためだ。我今から向かうのは新宿の歌舞伎町。恐らくこのエリアの雑居ビルの一室に真奈さんが拘束されている可能性が高い。君が提供してくれた情報が我々の捜査を大幅に進展させている。感謝するよ。

隆輝は自分のしたことが真奈の命を救うことに繋がっているという事実に、微かな希望を抱いた。彼は与えられた使命を果たすべく、ただ息を潜めてアパートで待つしかなかった。

そしてトクハンを乗せた警視庁のパトカーは大急ぎで新宿の雑居ビルに向かった。

キャンパストレーダー隆輝編⑤に続く

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サラリーマン投資家。Xを運用開始して約8年、2024.11よりブログ開始

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