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第72話 ストーリーモード15 不動産編 刹那と凛Part2 『青山に眠る法的迷宮物件~前編~』

あらすじ(前回までの振り返り)詳細は第41話「IPOを目指す女性投資家達」をご参照ください。

第41話 ストーリーモード8 刹那と凛/不動産編 『IPOを目指す女性起業家たち』 – インベスターeye’s 株ブログ『登竜門』

東京・表参道の小さなオフィスで夜を徹して働く刹那と凛。彼女たちは「株式会社インベスターアイ」を立ち上げ、不動産業界の闇に切り込む女性起業家コンビである。

刹那「あー、またもや終わらない……。凛、そっちはどう?」
凛「せやな……今夜はエンドレスモードや。ちなみに今日はリポD買ってきたで 笑」

夜の表参道。狭く薄暗いオフィスの片隅で、刹那と凛はパソコンに向かっていた。「株式会社インベスターアイ」は関東×関西コンビの二人が立ち上げたスタートアップである。

女性起業家と聞こえはいいが現実は甘くない。人も金も足りない。サービス残業も日常茶飯事。だが二人には夢がある。それは「東証グロースにIPOし、業界を変える存在になること」である。

二人は大学卒業後、大手不動産会社に就職した。しかし業界の闇に直面する。

ノルマ至上主義、千三つ営業、そして空き家問題の放置。「効率にならない案件は後回し」「売れない物件は扱うな」、そんな空気が業界全体に蔓延している。

刹那「ねえ凛、私ずっと思ってるんだけど、不動産業界ってまだ黎明期だと思わない?」
凛「ほんまや。AIやDX言うてるけど現場は昭和のままやで。放置された空き家だって900万戸超え。もはや社会問題や。」

刹那「それなら私たちでリアル正直不動産を立ち上げよう。AIを駆使して、誠実な不動産を。」
凛「ええやん。Pythonマスターである私の出番やな。」

こうして「インベスターアイ」は生まれた。

― 青山に眠る法的迷宮洋館編―

青山の高台に佇む古びた洋館。そこに住む元女優・朝比奈麗子が依頼したのは空き家の売却である。しかしその対象物件は相続・登記・境界とあらゆる法の迷宮を抱えていた。

午後4時。沈みかけた陽光がビル群の間を縫い、石畳の坂道を黄金色に染めていた。タクシーを降りた刹那は、腕時計に目をやりながらため息をついた。

刹那「まさか元女優の洋館案件がここまでやばいとはね。」
凛「そらそうやろ。Googleマップで見ても庭だけで私の実家3つ分あったで。」

狭い路地の奥、蔦に覆われた三階建ての洋館が姿を現した。白い外壁は年月に削られてところどころが剥げ落ちている。

門を開けると、バラの香りとともに年季の入った空気が漂った。壁はひび割れ、豪奢なシャンデリアが僅かに揺れている。

そこに現れたのは白いシルクのスカーフを巻いた女性、朝比奈麗子である。年齢を重ねてもなお人気を博した女優時代の面影を残す美貌を有している。麗子はゆっくりと微笑みながら二人を迎え入れた。

麗子「まあまあこんにちは、あなたたちがインベスターアイの?」
刹那「はい。代表の如月と申します。こちらは共同創業者の橘です。」
凛「初めまして、よろしくお願いいたします。」

麗子はサロンチェアに腰掛けて紅茶をすする。その横で刹那はPCを開き、凛はタブレットで土地登記簿を確認していた。

刹那「さっそく本題に入りますが、登記簿上の所有者は朝比奈恒彦さんで間違いないですか?」
麗子「ええ。夫ですの。でも、もう10年前に亡くなりましたわ。」

刹那の指が止まる。相続登記は未完了、と。

凛がタブレットを覗き込みながら小声で呟く。
凛(これ、2024年に改正入っとるパターンやな。)
刹那(だね。相続登記の義務化。これはスルーできないわ。)

法律上、相続登記を3年以内にしないと10万円以下の過料が科される。つまり、麗子の家はすでに法的にはグレー、いやブラックホールに突入している。

刹那はゆっくりと言葉を選んで話し出した。
刹那「麗子さん、率直に申し上げますとこの物件、失礼ですが法的には地雷原になる可能性を秘めています。」

リーガルポイント▶東京法務局より抜粋📝令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化

相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。

麗子はキョトンとした表情の後、フッと笑った。
麗子「まあ、若いのに表現が面白いのね。でも大丈夫。私、こう見えて悪運は強いのよ。」

(このタイプは一番やっかいだ。)刹那と凛は目を合わせ、無言の頷きを交わす。

翌日のインベスターアイ事務所。狭いワンルームオフィスに夜の街の光が反射していた。刹那はホワイトボードに「空き家案件・進捗メモ」と書き、凛がコーヒーを片手にPCを叩いている。

凛「登記情報、まとめたで。相続人は3名。うち1人は連絡先不明。
刹那「典型的な所有者不明土地パターンね。」

刹那「この物件、きっと誰も手を付けたくなかったんだと思う。」
凛「せやな。儲からんし時間かかるし、なにしろトラブルの温床やん。」
刹那「でもやる価値はある。これはビジネスじゃなくて、社会の修復よ。」

数日後、再び二人は麗子邸を訪れた。麗子は相変わらず優雅に迎え入れるが、空気はどこか張りつめている。

刹那「朝比奈様、この土地の登記には法律的に亡くなられたご主人の相続人全員の署名が必要です。ただし現在、1名の所在が不明でして…」

麗子「まあ、それは困ったわねぇ。でも恐らくその人は見つからないし、私に会いたくないのよ。」

刹那は静かに視線を落とした。

麗子はゆっくりと口を開いた。
麗子「夫の連れ子である悠斗よ。もう20年以上会っていないわ。原因は私にあるんだけど・・。」

その言葉に場の空気が一変した。

刹那「麗子さん。私たち探して説得してみせますよ、その方を。」

麗子が顔を上げると、目がわずかに潤むのが垣間見えた。

次回予告(後編)

空き家をめぐる法的迷宮物件、刹那と凛は失われた家族の絆を追う。

第73話に続く

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