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第73話 ストーリーモード16 不動産編 刹那と凛 Part3『青山に眠る法的迷宮物件~後編~』

街灯の柔らかな光がオフィス街を優しく包み込んでいた。狭いワンルームのインベスターアイオフィスでは、刹那と凛がいつものようにパソコンに没頭している。ホワイトボードには「朝比奈邸案件:進捗メモ」がびっしりと書き込まれ、付箋が乱雑に貼り付けられていた。相続登記の義務化、空き家問題の深刻さ、そして朝比奈麗子の夫の連れ子である悠斗の存在・・この案件は、単なる不動産売却の枠を超え、複雑な人間模様を浮き彫りにしていた。

刹那はコーヒーカップを握りしめ、ため息をついた。「麗子さんの連れ子、悠斗さん…20年以上連絡がないって、ただの喧嘩じゃない気がするよ。かなり深い傷があるみたい。」


凛はタブレットをスクロールしながら関西弁で応じた。「ほんまやな。登記簿見ても相続人は麗子さん、悠斗さん、もう一人の妹さんやけど、妹さんはすでに署名済み。問題は悠斗さんだけや。でもこの洋館、相続以外にもヤバい点があるで。境界線が曖昧なんよ。隣の土地との境界が、戦前の登記で止まってる。まさに法的迷宮物件や。」


刹那の目が鋭くなった。「境界問題か……。それ、2023年の不動産登記法改正で地籍調査の推進が叫ばれてるけど、実際は放置されがちだよね。もし境界争いが起きたら、売却どころか訴訟沙汰になる可能性もある。


凛が頷く。「せや。うちのAIで地図データを重ねてみたけど、庭の端っこが隣地と重なってる部分がある。」二人は目を合わせ、無言で決意を固めた。この洋館は相続の闇だけでなく、土地の形状的にも歴史的な複雑さを抱えていた。刹那と凛にとって、これはビジネスチャンスではなく業界の闇を照らすための闘いだった。


翌朝、二人は再び青山の洋館を訪れた。麗子は応接室で待っており、白いシルクのスカーフを巻いた姿はまるで映画のワンシーンを思わせた。しかし、その目はどこか遠くを見つめ、疲労の色が濃い。


「麗子さん、悠斗さんのことについてもう少し詳しく聞かせてください。」刹那が穏やかに切り出した。
麗子は紅茶を一口飲み、ゆっくりと語り始めた。「悠斗は夫の恒彦の最初の妻の子よ。私が恒彦と出会ったのは、彼が離婚して数年後。女優として華やかな生活を送っていた私に、悠斗はなかなか馴染めなかったの。高校生の彼にとって私は『父を奪った女』だったわ。」


凛がノートにメモを取る。「具体的にどんな出来事があったんですか?」
麗子は目を伏せ、声が震えた。「結婚後、悠斗を養子に迎えようとしたの。でも彼は拒否した。ある日、家族旅行の計画中に大喧嘩になって……『お前は本当の母じゃない』って言われたわ。それ以来疎遠で・・20年経った今もあのときああしていれば、と色々後悔が消えないの。」


刹那は静かに手を握った。「麗子さん、辛かったですね。でも、悠斗さんもきっと恒彦さんの死をきっかけに心境が変わっているはず。私たちが橋渡しします。」
麗子の目が潤んだ。「ありがとう…。でも、この家にはもっと深い闇があるの。夫の死後に固定資産税の滞納が発覚したの。相続登記を怠っていたせいで税務署からの督促が来てるけど、境界問題が絡んで計算が複雑で……。」
凛がタブレットを覗き込む。「固定資産税の滞納か。地方税法で延滞金が年14.6%かかるし、売却時に差押えのリスクもある。」
麗子はため息をついた。「そうよ。この家は私の人生の象徴。でも、売却できなければ重荷になるわ。」


事務所に戻った二人は調査を本格化させた。凛はPythonスクリプトを起動し、公開データベースをクロール。SNSの足跡、住民票の移動履歴、建築業界の名簿を次々と解析していく。


「よっしゃ! 悠斗さん、福岡の設計事務所にいるで。Xのアカウントも見つけた。プロフィールに『建築家として、過去の遺産を未来に繋ぐ』って書いてる。皮肉やな。」凛が興奮気味に言った。
刹那は画面を覗き込み、目を輝かせた。「過去の遺産…この洋館のことかも? DMで連絡してみよう。でも、慎重に。いきなり相続の話じゃ警戒されるよ。」


さらに調査を進めると、新たな事実が浮上した。洋館の境界問題は戦前の地籍図と現代の測量が一致せず、隣地の所有者が最近、境界確認訴訟を検討しているという情報が法務局の記録から見つかった。加えて、洋館の一部が文化財指定の候補に挙がっており、売却に制限がかかる可能性も。


刹那はホワイトボードに「境界争い」「税滞納」「文化財?」と追加。「これ、全部クリアしないと売却不可能だね。法的迷宮第三弾…。でもAIで地籍データをシミュレーションすれば、境界の推定ができるかも。」
凛はコードを叩きながら笑った。「任せとき。うちのAIスクリプトで衛星画像と登記データを重ねて、境界線を可視化するで。これで隣地オーナーと交渉の材料になる。」


数日後、刹那と凛は福岡の博多駅に到着した。秋風が心地よく街は活気に満ちている。二人は博多駅付近にある悠斗の設計事務所へ向かい、インターホンを鳴らす。事務所はモダンで壁に建築模型が並んでいる。
受付で名刺を渡すと、38歳になった悠斗が現れた。短髪に鋭い目つきだがどこか疲れた表情。刹那は丁寧に挨拶した。

「朝比奈悠斗さんですね。私たちは株式会社インベスターアイの如月と橘です。青山の洋館についてお話ししたくて。」
悠斗の顔が強張った。「あの家か…。帰ってくれ、これ以上関わりたくない。」
凛が一歩踏み込んだ。「悠斗さん、これは他人事では済まない問題です。境界問題と税滞納が絡んでて、売却が難航している。あなたも相続人として巻き込まれるかもしれません。」


悠斗は椅子に座り、ため息をついた。「境界問題? あの家は、父が戦前に建てたものだ。隣地とは昔から揉めてたよ。父は『歴史の遺産』って言って守ってたけど、俺にはただの重荷なのさ。」
刹那は静かに言った。「話は変わりますが、実は麗子さんからあなた宛の手紙を預かっています。良ければ過去に何があったのかをお聞かせください。」


悠斗は手紙を読んだ。明らかな動揺が見られる長い沈黙の中、彼は語り始めた。「父の再婚後、俺は疎外感を感じていた。麗子は女優で華やかだったけど、俺の本当の母は普通の主婦だった。ある日突然父が麗子を連れてきたときはギャップに苦しんだよ。しかも母親を追い詰めて間接的に離婚させたのは麗子だと当時は思っていたんだ。しかし今分かったが、俺の勘違いも大いにあったみたいだな・・。」

刹那が優しく言った。「麗子さんは20年間あなたのことで苦しんでいました。養子申請を拒否されたことを今でも自分のせいだと後悔しておられます。今でも本当の息子さんだと思われていますよ。」

悠斗は固唾を飲んで言った。「分かった、麗子の言う通りにするよ。俺も若くて未熟なところがあったからな。こちらも申し訳なかったと思ってる・・。そこまで考えてくれていたなんて。」


凛が優しく言った。「今のお言葉、麗子さんが聞いたら喜びます。ちなみに青山の物件は法的には迷宮入りレベルの物件です。一緒に解決していきましょう。境界問題は弊社のAIでシミュレーションしたデータで隣地オーナーと交渉できます。税滞納も、相続登記を完了すれば分割払いの道が開けますよ。」


悠斗は黙って資料を見た。やがて、頷いた。「分かった、署名するよ。でも条件がある。麗子に伝えてくれ。もう恨んでないからって。」

刹那の胸が熱くなった。「ありがとうございます!悠斗さん、この家が新しい誰かの手に渡るよう頑張ります。」


東京に戻った二人は境界問題に本腰を入れた。凛の特製AIスクリプト(インベスターAI)は、衛星画像と古地図を統合して境界線の3Dモデルを作成した。隣地オーナーとのミーティングで提示すると、オーナーは驚きながらも合意の方向へ向かう。

しかし新たな壁が現れた。洋館が「登録有形文化財」の候補に挙がっていることが判明した。文化財保護法で、改修や売却に制限がかかる可能性がある。刹那は法務局に問い合わせ、文化庁のガイドラインを調べた。「これ、売却前に文化財登録の申請をクリアしないと、買い手がつかないわ。」

凛がため息をついた。「法的迷宮物件トラブル第四弾やな・・。でも登録されれば価値が上がるかも。AIで類似物件の売却事例を分析してみるで。」
二人は麗子を訪ねて進捗を報告すると、涙を浮かべた。「悠斗がそんなことを…。あなたたち、本当にありがとう。」

事務所で刹那と凛は書類をまとめていた。「相続登記は完了」し、境界は確定、税は分割払いで解決の見込み。文化財登録は申請中だが、そこに買い手が現れた。若いアーティスト夫妻がギャラリーとして活用したいという。青山の一等地ということもあり買値が30億円であったためインベスターアイに入った仲介手数料は30億円×3%=9,000万円である。この手数料は新型AIの実装費用やIPOの費用にあてていく。


刹那は窓辺で呟いた。「この案件、法的には迷宮物件だったけど麗子さんと悠斗さんのドラマがあってこその解決だね。やはり不動産は1件1件全く違う。インベスターアイはAI×人と人の繋がりを繋げられるのが強みだね。」
凛は笑った。「せやな。次はAIを本格的に売却マッチングに活用や。東証グロースIPOに向けて一歩一歩やな。」

芸能界とつながりのある麗子の力で「インベスターアイ」はこれから有名になっていく。しかしその過程にはトラブルが付き物ではあるが・・。

第74話に続く

今回のリーガルポイント(チェック📓)
境界問題と不動産登記法改正(2023年)
不動産登記法の改正により、地籍調査の推進が図られていますが、旧来の登記が不備な場合、境界確認訴訟が発生しやすく、売却を阻害します。また、固定資産税の滞納は地方税法で延滞金が発生し、差押えのリスクを伴います。
文化財保護法
登録有形文化財に指定されると保存義務が生じ売却や改修に制限がかかりますが、価値向上のメリットもあります。

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