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第77話 インベスターズノベルズ『キャンパストレーダー隆輝編③ レバレッジの恐怖!!そして闇の世界へ・・』

隆輝は悪夢から覚めた。夢にまで『メディカル・フロンティア』のストップ安が出現したのだ。
しかしそれは正夢になった。市場が開いた瞬間、トレーダーとして初心者の隆輝は『メディカル・フロンティア』で今までの損失を挽回しようとした。なんと昨夜かき集めた100万円×信用枠マックスで成り行き買いを試みたのだ。治験失敗の疑いは晴れず、案の定寄り付きから売り気配、大陰線を描き即座にストップ安となった。


「…嘘だろ。まさか、、一瞬で全部が溶けた…」
レバレッジを極限までかけた信用取引は、彼の全資産を焼き尽くした。だがそれだけでは終わらない。画面中央で赤く点滅する文字が隆輝を更に奈落の底へ引きずり降ろした。


学生ローンで借りた100万円、残りの貯金30万円、合計130万円は文字通り消滅。さらに追い討ちをかけるように証券会社から届いた損失を穴埋めするための追証(追加保証金)25万円の請求通知。
「クソッ…!こんなはずじゃなかった!市場は俺の目論見を裏切ったのか・・!」
彼が狂信した「合理的な選択」「資本主義のリアル」は最終的に最も非合理的な重荷、すなわち「負債」という鎖を巻き付けた。隆輝は吐き気を催しながら、哲学を嘲笑した自分が皮肉にも金銭的なニヒリズムに直面していることを悟った。

追証の支払期限は刻一刻と迫り、学生ローンへの返済も始まる。隆輝は連続する不眠と、胃が受け付けない食事の中でもはや「億り人」など幻想だと知る。「生き残ること」が唯一絶対の目標となった。
冷え切ったコーヒーと吸い殻の山が散らばるテーブル。隆輝は震えが止まらない指で、理性なら決して触れることのない深淵へのリンクをクリックした。

『即日融資。他社で断られた方もご相談ください。』
『審査なし。秘密厳守。』

闇金のウェブサイトである。今の隆輝は「何としてでも取り戻す」という狂気的な熱に冒されていた。「これしかもう道はねぇんだ…」彼は30万円という金額を命綱を握るように打ち込んだ。
数分後、スマホが不気味な着信音を響かせる。非通知である。隆輝は最後の賭けに出る決意で応答した。


「…もしもし。」
「隆輝さん?30万、すぐにでもご用意できますよ。利息は一週間で30%ですけどね。来週の火曜日に元金と合わせて39万円を頂戴します。これは急いでいる貴方への優遇金利デス。」
年利換算で1500%を超える「死の金利」を持ってしても隆輝に選択の余地はなかった。
「…お願いします。」

借りた30万円は追証に充てられ、残りの微々たる金は「最後の最後」の軍資金として再び市場に消えた。結果は予想通り、数日で跡形もなく蒸発。闇金への返済日は宣告された死刑執行日として迫っていた。
火曜日の夕方。大学の授業が終わりアパートへの帰路であった。人通りの少ない路地裏に、黒塗りのセダンが静かにかつ威圧的に滑り込んできた。
「隆輝君だね?話がある。」
車から降りてきたのはスーツ姿の体格の良い男が二人。彼らの目に笑みは一切なく、隆輝の背筋を氷の刃が走った。
「お、お金は…今週末までに、何とか…します。。」
隆輝の震える声は、男の冷たい視線によって瞬時にかき消された。
「今週末?遅いんだよクソガキが。ウチは返済が滞る奴には別の『担保』を取ることになっている。
「担保…?」
隆輝の頭に疑問符が浮かんだ瞬間、男は無機質な声で告げた。

「お前の愛しい彼女さんだ。真奈さんといったかな?随分と可愛らしいお嬢さんだな。お前は彼女にこの借金のことを話したのか?」
隆輝の思考は完全に停止した。彼が「資本と労働」で区切っていた世界は今、最も大切で金銭的価値に還元できないはずの存在にまで侵食されたのだ。
「なんで真奈のことを知っている・・!?真奈には関係ない!俺の借金だ!」
「関係あるさ。お前がその女と将来だか何だかを夢見てたんだろ?ウチは連帯保証人を置いてないからねぇ。その『未来』ごとウチが管理してやるよ。」
男はポケットから隆輝と真奈が話している写真を取り出した。



その直後、隆輝はもはや全く生気の無い声で真奈に電話をかけた。
「…真奈、今、どこにいる?」
「隆輝?今家に帰ってる途中だけどどうしたの?声が変だよ・・何かあったの?」
「いいか、絶対に家に帰るな!誰にも会うな!頼む…、絶対にだ!」
隆輝のただならぬ様子に、真奈は恐怖を覚えた。
「隆輝、教えてよ!私に何が…」
「俺が…俺が全部間違っていた!真奈!俺はお前の優しさを『利回り』で計算しようとしたクソ野郎だ!俺は…、資本家どころか、ただの負債まみれの…」
彼は言葉を詰まらせた。その瞬間、真奈の背後から複数の男の低く獲物を追い詰めるような声が聞こえた。
「隆輝の借金のカタだ、ちょっと付き合ってもらうぞ。」
「きゃああああ!!」
真奈の悲鳴が、電話越しに隆輝の鼓膜を破砕した。
「や・・やめてくれ!!真奈ーーー!!」

通話はそこで断絶した。スマホから流れるのは無情な切断音だけであった。
アパートの薄暗い部屋で隆輝は座り込んだ。身体は鉛のように重い。彼が馬鹿にして蔑んでいた時給1200円の「安価な切り売り」で貯めた30万円。あの時箱根に行っていれば、真奈を失うことはなかった。

「時間だって資本だろ、真奈」
「結果がすべてだろ、真奈」

隆輝の傲慢な言葉が頭の中で拷問のようにリフレインする。彼は「資本家」になろうとして最も大切な資本である真奈との信頼と、彼自身の人間性を最も安価に売り飛ばしていたのだ。
窓の外は深い深夜の闇。隆輝の瞳にはかつてあった狂信的な光はなく、ただ絶望と後悔の色が混ざり合った乾いた涙だけが浮かんでいた。『こういう場合はどうすればいい!?頭を使って考えろ、考えるんだ。。』
「全部、俺のせいだ・・」それは誰にも届かない独白だった。・・夜の静寂が隆輝を更なる孤独の淵へ追い込んだ。

キャンパストレーダー隆輝編④に続く

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インベスターeye

サラリーマン投資家。Xを運用開始して約8年、2024.11よりブログ開始

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