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第79話 インベスターズノベルズ『キャンパストレーダー隆輝編⑤ 東京の街を縦横無尽・・敵はどこだ!?』

トクハンを乗せたバンが、ネオンの残骸が反射する歌舞伎町の裏通りに静かに滑り込んだ。黒田班長と実動班は、隆輝の情報と解析データが示す「可能性の高い拠点」である築40年の雑居ビルを囲んでいた。
「涼子、最終チェックだ。目標フロアに動きは?」黒田班長が無線で指示を出す。
「(無線)現在、目標フロアは静止しています。しかしビル全体の監視カメラシステムが異常に複雑です。ダミーの映像が多く混じっている可能性があります。」大空涼子の声は冷静である。

実動班が音もなくドアを破り目標フロアに突入した。しかし、そこにあったのはわずかな備品と空っぽの部屋だった。「班長、ハズレです!人はおらず、緊急退避した形跡があります。恐らく我々の動きを察知していた…!」隊員の一人が焦燥した声で報告する。

新宿の雑居ビルから離れた捜査車両内で待機していた大空涼子は、突入失敗の報告を受けPCの画面を睨みつけていた。
「おかしい…解析は完璧だったはず。この短時間で真奈さんを含む全員が逃げ切れるだろうか?
彼女は隆輝から提供された「池袋のレンタルオフィスを経由したURLの足跡」を再検証し始めた。当初は「ダミー」と判断していた情報だ。
「…黒田班長、訂正します!池袋のレンタルオフィスはダミーではありません。二段階のトラップです!彼らは我々が『本命』と見せかけた新宿を突くのを待ち、その間に真奈さんを池袋の拠点へ移送した可能性があります!

黒田班長は即座に指示を出す。「全隊、新宿から池袋へ!隆輝君から得た口座情報の追跡班、池袋エリアでの現金引き出し情報を徹底的に洗い出せ!!」

池袋の雑居ビル前に到着したトクハン実動班。涼子の追跡によりビルの一室が特定された。黒田班長の号令で再び突入する。しかし、そこにいたのは真奈ではなく身なりを崩した中年男性であった。彼はパソコンを操作しており部屋には現金と違法取引の書類が散乱していた。


「動くな!警察庁特殊犯罪対策班だ!」
男性は抵抗することなく白状した。
私は組織の管理地点にいただけです…!真奈さんはトップの指示で、つい30分前に別の場所へ移されました。奴は…いつも抜け道を用意しています。」

新宿→池袋→別の場所へ。トクハンは闇金組織のトップによる巧妙な「東京縦断ゲーム」に翻弄されていたのだ。真奈を無作為に移動させて警察の注意を分散させる。狙いはそこだったのだ。

トクハンが三度目の新宿行きを決断しようとしたその時、涼子の無線が緊迫した声を伝えた。
「黒田班長、ストップです!新宿には戻らないでください!」
「何があった、涼子!?」


「池袋への移送後すぐに新宿へ戻すのはあまりにも定石すぎます。彼らは常に我々の捜査の先を読んでいます。その情報こそ最後のトラップです!」
涼子は、隆輝が提供した最初の口座情報と、池袋のレンタルオフィスのサーバーアクセス時刻の微細なズレを指摘した。そして、追跡を続けた先で、奇妙なサーバーの足跡が発見された。

それは池袋エリアでの不審な口座取引記録と、それに付随する「高田馬場」の地名が数回記録された通信ログだった。池袋から数駅。捜査の幹線道路からわずかに外れた場所であるが、隆輝達にとってはホームタウンである。

灯台下暗し・・。最終アクセス地点は高田馬場駅前の雑居ビルの地下。建物情報は確認中ですが、極めて人目の多い学生街の一角です。全隊直ちに高田馬場へ!」

トクハン実動班が高田馬場へ向かう車中、涼子からの最終データが黒田班長のタブレットに送られてきた。そこには、対象の雑居ビル地下の店舗名と、それに付随する個人情報が記載されていた。

黒田班長はすぐさま、警察の保護のもと待機している隆輝に、焦燥した声で電話をかけた。
「隆輝君、高田馬場駅前の雑居ビル地下にある居酒屋『黒提灯』を知っているか?」

受話器の向こうで、隆輝は息を飲んだ。その沈黙は激しい衝撃を物語っていた。
「…知っています。私と真奈がサークルの仲間と何度も使っていた店です。安くて居心地が良くて。

「隆輝君、冷静に聞け。涼子の解析で、何者かが闇金に我々の動きに関する高額な情報料を受け取っていた証拠が上がっている。彼が真奈さんの居場所を隠した実行犯だ!

隆輝の頭の中で全てのピースが繋がった。新宿、池袋、そして馴染みの居酒屋。トクハンを翻弄できたのは隆輝自身が提供した情報に最も『近しい内通者』がいたからだ。
「…まさか…!?」

隆輝は受話器を投げ捨てて待機していた部屋を飛び出し、背後から追う警官を振り切り夜の東京に駆け出した。

高田馬場の路地裏。雑居ビルの地下へと続く階段の上には、煤けた黒い提灯が一つ。ごく普通の居酒屋『黒提灯』である。トクハンは店を囲み、黒田班長が特殊警棒で店の裏口を破壊して突入する。カウンターには酔客を装った組織のメンバー数名が倒れ込み、店主は呆然としている。そして店内には奥まった頑丈な扉の個室がある。

扉を蹴破った黒田班長が見た光景は組織のトップである男と縛られた真奈であった。その横に立っていたのは何と・・隆輝の親友である『哲也』だった!!その顔にはかつての親友としての温かい笑顔はなく、冷酷で見下すような傲慢な笑みがこぼれていた。

「遅かったな黒田班長。居酒屋なんていうローカルな場所は捜査網には引っかからなかったか?」トップの男が嘲笑う。
その時、個室の入り口に息を切らした隆輝が現れた。
「…哲也…なんでだよ!?」

隆輝の悲痛な叫びを哲也は鼻で笑った。
「隆輝、待ってたぜ。お前は本当に恵まれてるよな。資本家を目指すとか言って俺を見下してたな。彼女の真奈も皆の憧れ。それにひきかえ俺は?俺はな!!お前がキラキラした人生を送る裏で、この薄汚い居酒屋でクズみたいな客の相手をしてたんだよ!!」

哲也の声には、隆輝への嫉妬から闇に染まったことへの開き直りがあった。
「お前はいつだって運が良かった。だが俺が運命を変えてやったんだ。お前の情報を組織に売ることで俺の資本になったんだよ。」

哲也は真奈の首筋に刃物を突きつけたトップの男の肩に手を置いた。その動作は完全に組織の一員としてのものだった。
「隆輝、お前が持っているもの全てを差し出せ。それが真奈を取り戻す唯一の方法だ。俺たちの昔の絆なんて一文の価値もない、薄っぺらなものだったってことだ。
親友から放たれたあまりにも冷酷な言葉。しかし隆輝は直ぐに答えた。
「やるなら俺を殺れ。真奈を解放しろ!!」

隆輝の決意に哲也は一瞬たじろいだ。その隙をトクハンは見逃さなかった。黒田班長の合図とともに隊員が一気に個室になだれ込んだ。哲也は抵抗したがすぐに取り押さえられた。闇金組織のトップの姿は既に無く蛻の殻であった。哲也は利用されたのだ。

哲也は手錠をかけられながら虚ろな目で隆輝を見つめていた。その目には後悔よりも、まだ拭い去れない嫉妬の炎が宿っているように見えた。


真奈は救出された。隆輝は警察の保護のもと、真奈を抱きしめた。
「ごめん…ごめん、真奈…!全部俺のせいだ。。」

真奈は拘束により放心状態であったが、隆輝の顔を見てぎょっとしたような表情で汚らわしいものを見るようなしぐさで俯いた。これには隆輝はショックを隠せない。しかし無理はない・・隆輝のせいで命を狙われかけたのだ。

黒田班長は静かに言った。「隆輝くん、これからの人生再構築が君の『贖罪』となる。真奈さんへの裏切り、そして哲也くんからの裏切りというダブルパンチで大きな傷を負ったと思う。しかし、これは残酷だが自分が招いた結果だ。トクハンのカウンセリングで今後のためにしっかりと今回起こってしまったことを話して欲しいんだ。」

隆輝は覚悟を決めたような表情で深く頷いた。

キャンパストレーダー隆輝編⑤ 完

今後も隆輝編は不定期で続けていきます。

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サラリーマン投資家。Xを運用開始して約8年、2024.11よりブログ開始

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