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第83話 リンセツ!!不動産ラビリンス Part5『不可解な資産家とデジタルトラップ後編 ~デジタル鬼ごっこ in大阪なんば~』

前回までのストーリーは第81話を参照↓

第81話 リンセツ!!不動産ラビリンス Part4『不可解な資産家とデジタルトラップ~前編~』 – インベスターeye’s 株ブログ『登竜門』

翌朝、凛はオフィスのホワイトボードを眺めながら紅茶をあおっていた。
 【ターゲット:AI地面師シンジケート】【ミッション:西園寺氏の捜索及び取引阻止】
 昨夜書かれた文字が、朝の光の中で妙にリアルに見える。


「刹那。昨夜のIP逆探知やけど、もう少し詳しく絞り込めたよ。」
 凛がノートパソコンの画面を回転させた。地図アプリに赤いピンが刺さっている。
「なんばセンタービル付近の雑居ビル。七階に複数台のサーバーから接続した痕跡がある。ポート解析からして、リアルタイムAI生成の中継拠点やと思う。」
 刹那は地図を凝視した。
「……行くしかないね。」
「でしょ?」
「でも一人では危ない。権田さんは…」

その時携帯に着信が来た。権田からだ。
「今朝西園寺氏から連絡があって、取引を今日の17時に進めたいと言ってきている。場所はなんばのカルチャービルの七階だ。」
 刹那と凛は顔を見合わせた。
「…なんばカルチャービルの七階!?」
「ああ。オンラインでの面談希望らしい。向こうが場所を指定してきた。」
 凛がすぐにメモを取り、電話を終えた刹那へ耳打ちする。
おかしない? 逆探知したビルと一致しとる。なんで相手がわざわざそこに呼ぶ?
向こうはこっちがIPを特定したことを知らないはずよ。…でも誰かがIP情報を漏らしたとしたら?
部屋に沈黙が走った。
やはり盗聴器が仕掛けられていたのかもしれない。

だとすれば昨夜の面談もすべてが計算された演出だ。完璧すぎる書類、そして都合よく出てきた「なんばカルチャービル」。西園寺は最初からインベスターアイを炙り出したかったのかもしれない。そしてTruthEyeの存在を業界内のどこかから嗅ぎつけていた可能性がある。
「行こう、凛。でも罠を前提として動くわよ。
「もちろん。準備してあるで。」
 凛は静かにリュックを開けた。ノートPC、モバイルルーター、超小型の録音デバイス、そして位置情報を自動送信するスマートウォッチ。
「バックアップは誰に頼む?」
「麗子さんに連絡する。彼女のコネクションがあればなんとでもなる。

午後四時半。なんばの雑居ビル前。

道頓堀のけたたましいネオンから一本入った路地にそのビルは建っていた。外壁はくすんだベージュ、エントランスには「カルチャービルなんば」の文字。占い師・語学スクール・リラクゼーションサロンが入居するごく普通のテナントビルだ。七階だけが「貸会議室」と案内板に書かれている。
「エレベーターは使わへんほうがいい。非常階段で上がろ。」
七階の廊下は薄暗く蛍光灯が一本だけ点滅していた。黒い大理石の突き当たりの会議室のドアには「本日貸切」の紙が貼られている。
刹那がドアノブに手をかけた瞬間、凛が小声で囁く。

「録音開始した。TruthEye、スタンバイ済み。」
そしてドアを開けた。

会議室には大型モニターと二脚の椅子。そして権田が先に座っていた。
「来たか。」
その声は昨日と少し違った。焦りではなく、静けさがあった。
「権田さん……。本日もよろしくお願いいたします。」
「まあ座ってください。」
刹那は座らなかった。
「立ったままで結構です。」
権田は苦笑した。


モニターが自動で点灯し、画面に見知らぬ男が入ってきた。四十代前後でスーツを着た精悍な顔立ち。
『インベスターアイの皆さん、ようこそ。私は西園寺の代理人です。』
声は落ち着いているが、どこか機械的な抑揚がある。
「…代理人?」
『昨夜のAI解析、お見事でした!ただ、あなたたちのTruthEyeはこちらも十分に把握しています。業界内での評判はすでに届いていた。だから再度お呼びしたんです。
凛が素早くキーを叩く。TruthEyeを起動しながら、画面の顔に照準を当てる。しかし―
「刹那…これ。」凛の声が微かに震えた。「検知アルゴリズムがエラーになってる。」
「エラー?」


カウンター処理されてる!!こっちの解析ロジックに対してリアルタイムで逆干渉してる。TruthEyeが…無効化されとる。
画面の男が口の端を上げた。
最新のディープフェイクはね、TruthEyeを既に学習済みなんですよ。

その瞬間、会議室の照明が落ちた。

完全な暗闇ではない。モニターの青白い光だけが残っている。
ドアが開く音がした。背後からである。
「動くな!!」
低い声。男が二人程入ってきた。


刹那は素早く状況を整理した。逃げ道はドアだけ。男が二人背後を塞いだ。権田はなぜかそちら側に移っている。なんと西園寺と権田はグルだったのだ!!そしてTruthEyeは無効化されたままだ。
「凛、スマートウォッチは!?」
「送信済みやで。」凛はすでに動いていた。位置情報と音声データが麗子への自動転送設定で流れ始めている。
「賢い。」権田が言った。「でも残念だ。今ここを出ても、あなたたちのことはすでに調べ尽くした。事務所の住所、取引先、銀行口座。動けば動くほどリスクが増える。」

「…それは脅しですか!?」刹那が言った。
交渉です。TruthEyeの技術、インベスターアイのルートを我々に売ってくれれば見逃してもいい。

刹那と凛が積み上げてきた財産をいとも簡単に渡す訳にはいかない。しかしここで断れば命に関わる可能性さえある・・。絶体絶命かと思ったそのときである。
廊下から足音が聞こえてきた。素早く規則正しい足音である。
ドアが勢いよく開いた!
「大阪府警特殊詐欺対策班(トクハン)です。全員動かないでください!」

その後の展開は早かった。
麗子が弁護士経由で大阪府警の特殊詐欺対策班(トクハン)に連絡を入れていたのだ。刹那が位置情報を送信してから二十二分後のことだった。権田は現行犯で身柄を拘束された。モニターの男は遠隔接続を即座に切断したが、凛が通信ログを完全にキャプチャしていた。IPは香港経由だったが、バックトレースのための十分なデータが残っている。

本物の西園寺公彦は、『なんばから車で三十分の郊外の一軒家に監禁されていた』ことが翌日の捜査で判明した。

幸い命に別状はなく、スマートウォッチは本人ではなく犯人グループの一人が意図的に外して放置していたものだった。心拍ゼロのデータは罠だったのだ。大手ディベロッパーの権田と地面師グループがタッグを組み、インベスターアイの二人を罠にはめるための精巧なデジタルトラップを張った事件である。当然の話ではあるが、権田と地面師グループは大阪府警に逮捕された。

一週間後、表参道のオフィスに戻った刹那と凛。
ホワイトボードのミッションには大きく赤いチェックが入っていた。
「TruthEye、アップデートせなあかんな。」凛がぼやく。「カウンター処理されるとは思わんかった。」
「でもログは取れた。次に同じようなケースが発生した時の対策になる。」
「…でも相手も進化するで。」
「こっちも進化するだけよ。」
刹那はコーヒーを一口飲んで窓の外の青空を見た。
AIの顔をした詐欺師たちとの戦いはまだ始まったばかりだ。デジタルの闇はどこまでも深く、技術と悪意はいつも同じ速度で走り続ける。今回のデジタルトラップはほんの序章に過ぎなかったのだ・・。


第84話に続く

<用語解説>
カウンター処理(Counter Adversarial Attack)…… AI検知ツールの判定ロジックを逆学習し、検知を無効化する手法。ディープフェイク技術の高度化に伴い、「検知する側」と「検知を逃れる側」のいたちごっこが続いている。

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サラリーマン投資家。Xを運用開始して約8年、2024.11よりブログ開始

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