第109話 リンセツ!!不動産ラビリンスPart11 浅草編 百年蔵の相続人 エピソード4 『帝都という名の迷宮』

*【この作品はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。】

リンセツ!!不動産ラビリンス 浅草編
エピソード4「帝都という名の迷宮」
【新登場人物】
九条玄一(くじょう げんいち)| 一般財団法人 帝都総合研究所 名誉顧問
かつて国土交通省の事務方トップまで上り詰めた元官僚。退官後に設立した研究所を隠れ蓑に再開発案件の裏で巨額の中間マージンを抜き続けているとされる。

表参道の事務所には黒沢から送られてきた帝都総合研究所の登記簿と過去の受託事業一覧が届いていた。刹那はそれを一枚ずつ広げながら眉をひそめた。
「凛、この団体の事業内容見て。都市再生調査、地域活性化コンサルティング、住民合意形成支援…。」
「なんかふわっとした名目ばっかりやな。」
「実態のない仕事ほど、名目は立派になる。」

刹那は一覧表の数字を指でなぞった。国からの再開発関連の委託費が帝都総合研究所に流れそこから二次委託、三次委託と枝分かれし最終的に現場の工事や地権者への説明会に実際に使われた金額は当初の委託費の三割にも満たなかった。
「残りの七割はどこに消えたん。」
「管理費、コンサルティング費、調整費―名目はいくらでも作れる。各段階の会社が少しずつ抜いていけば、誰か一人を捕まえても全体像には辿り着けない。

凛がタブレットに表を打ち込みながら唸った。
「これもっとちゃんと図にしてみるわ。帝都総合研究所が国から一括で十億受けとる。そこから浅草開発サポート機構ってとこに七億流れてさらにその下の街づくりコンサルタント連合ってとこに四億。最終的に現場に落ちてきとるんはたったの三億弱…。」
「三段階の企業はすべて登記上の所在地が同じビルの同じフロアになっている。おそらく実体はほとんどない。」
「幽霊会社が三つも重なっとるってことか。」
「しかもそれぞれの代表者の経歴を追うと、全員が過去に帝都総合研究所か国土交通省の外郭団体に在籍していた。」
「これ、いわゆる中抜きってやつやんな。」
「ええ。しかもこの構造の一番上に座っているのが、帝都総合研究所の名誉顧問九条玄一。」

刹那がその名を口にした瞬間Truth eyeの画面に古い集合写真が表示された。国土交通省の若手官僚時代の生駒宗一郎の隣に、まだ髪の黒い九条が写っていた。
「生駒議員の昔の上司……?」
「正確には師匠に近い。生駒が国交大臣として容積率緩和の認定を出した時、その裏で制度設計を描いていたのがこの男だとしたら…。」
「浅草の再開発は、最初っから財前や極限だけの話やなかったってことか。」
「国の制度そのものを、退官後の私腹を肥やす仕組みに作り替えた人間がいる。源造さんも、神崎さんも、向井さんも。みんなその大きな仕組みの歯車に巻き込まれただけ。」

凛が過去の新聞記事のデータベースを検索し始めた。数分後彼女の指が止まった。
「刹那、これ見て。九条玄一は十五年前にも似たような騒動起こしとる。地方都市の区画整理事業で委託先の団体に不透明な資金流出があったって報道や。せやけどこの記事続報がほとんどない。」

「途中でもみ消されたということか。」
「当時の記者にコンタクト取ってみる?」
「その前に、この団体の理事名簿を洗おう。九条の名前だけを追っても表には出てこない。だが必ず、彼の息のかかった人間が要所に配置されているはずだ。」
Truth eyeが理事名簿と過去の官報を突き合わせ始めた。解析が進むにつれ画面には奇妙なつながりが浮かび上がってきた。地方自治体の元幹部、大手監査法人の元パートナー、そして蟇目啓一が理事の一人として名を連ねていた。

凛が息を呑んだ。
「蟇目さんって商店会長やっとるだけやと思っとったのに…。」
「表の顔は地域振興のための旗振り役。だが裏では帝都総合研究所の理事として、中抜きの一端を担っていたことになる。」
「あの人源造さんに『皆のため』って何度も言うてたんやろ。あれ全部自分の利権のための言葉やったってこと…。」
「おそらくは。だが蟇目一人の裏切りでは説明がつかないことがある。九条のような人物がなぜここまでリスクを冒して浅草にこだわるのか。」

その時事務所の窓の外に一台の黒いセダンが停まった。運転席の男がこちらのビルを見上げている気配がした。凛がブラインドの隙間からそっと覗く。

「刹那、あの車さっきからずっと停まっとる。」
「昨日の郵便物と同じ相手かもしれない。今日はこのまま帰らない方がいい。」
だが夕方になっても黒いセダンは動かなかった。二人は裏口から出て遠回りに地下鉄の駅へ向かうことにした。雨に濡れたアーケードの下傘を差した人波に紛れながら歩く。

「刹那、変な感じせえへん…⁈誰かにずっと見られとる気がする。」
「私も同じ感覚がある。振り返らないで。」
改札を抜け、ホームに降りた瞬間凛のスマートフォンが震えた。Truth eyeからの緊急通知だった。事務所の防犯カメラに、先ほどの黒いセダンから降りた男が映っている。顔認証の結果が表示された瞬間刹那の顔色が変わった。

「久我山…財前建設のあの男。」
「病院に来たあの人やんな。なんでうちらの事務所に…。」

…と言い終わらないうちに背後から強い力で肩を掴まれた。
「痛っ!」
そして何と凛が振り向く間もなく体が線路側へと押し出された!!

ホームの反対側から猛スピードで電車が入ってくる轟音が迫っている。

凛「えっ!?」
(こんなところで死ぬの⁉︎私…)

しかし正に危機一髪…誰かの手がガッと凛の腕を強く掴みホーム側に引き戻した!

刹那だった。とっさに凛の腕を掴み自分ごと人混みの中へ引き倒すようにして踏みとどまっていた。電車が轟音とともにホームに滑り込んでくる。冷たい風が二人の頬を叩いた。

肩を掴んでいた手はもうどこにもなかった。周囲の乗客たちは何が起きたのかも分からぬまま電車に乗り込んでいく。刹那が素早く周囲を見渡すと雑踏の向こうに一瞬だけ見覚えのある後ろ姿が見えた。だがそれもすぐに人波に紛れて消えていった。

「刹那、うち今殺されかけたんちゃう…⁈」
凛は涙声で震えていた。刹那は凛の肩を支えたまま荒くなった呼吸を整えようとしていた。
「間違いない。今のは事故じゃない。誰かが確実に線路に落とそうとした。」
「なんで…。」
「それだけ私たちが核心に近づいているということ…か。。」

電車が到着し二人は乗り込んだ。窓の外を流れる浅草の夜景を見つめながら刹那は静かに口を開いた。
「九条玄一。この男の正体を暴かない限りこの事件は終わらない。財前も生駒も所詮は彼が描いた絵図の中の駒に過ぎないのかもしれない。」
「うちら、その絵図描いた本人にまで辿り着けるんかな…。」
「辿り着く。向井さんが命懸けで繋いだ糸を、ここで切らせるわけにはいかない。それに、蟇目さんという生きた証人がすでにこちら側の視界に入っている。」

凛が驚いたように顔を上げた。
「蟇目さんを揺さぶるつもりなん……?」
「彼は九条の下で使われている駒の一人に過ぎない。追い詰められれば自分だけが泥をかぶることを恐れて口を開く可能性がある。組織の中で一番弱い環を突けば鎖全体が緩み始める。」
車内の灯りに照らされた刹那の横顔はいつもより一層険しくそしてどこか静かな決意に満ちていた。窓の外では雷門の提灯が、遠ざかる街並みの中でまだ赤く滲んでいた。

――迷宮の出口は、まだどこにも見えていなかった。だがその奥に潜む影の輪郭だけは、確実に見え始めていた。
エピソード5に続く

ランキングに参加しています↓

にほんブログ村 株ブログ サラリーマン投資家へ
にほんブログ村

人気ブログランキング
人気ブログランキング

コメントする

CAPTCHA


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)