
前回天空のスカイツリーラウンジで日米首脳会談の話に花を咲かせた三人。それから数ヶ月後世界は新しい「ショック」に見舞われていた。
史郎は仕事帰り、スマホの株価アプリを見ながら思わず立ち止まった。
「SOX指数、弱気相場入り?」
新橋のガード下、年季の入った立ち飲み屋「酒場みつわ」。カウンターの端でホッピーを傾けていたのは獅王だった。
獅王「おう、史郎。刹那ちゃんも。スカイツリーみたいな洒落たとこやなくて、こういう庶民の店の方がやっぱりしっくりくるわ。」
刹那「獅王さん、こういうお店も好きよ。活気があって元気出るもん!」
史郎がジョッキを片手にため息をつく。
史郎「獅王…半導体、めちゃくちゃ下がってるじゃないか。エヌビディアもインテルもアプライドマテリアルズもマイクロンもサンディスクも軒並み売られてる。SOX指数が高値から20%超下げて、テクニカル的に『弱気相場』入りしたらしいんだよ。」
獅王「そうやな。7月17日、SOXは3営業日続落で、6月下旬の最高値から20.2%安。週間でも約10%落ちとる。一時は前日比5.7%安の場面もあったらしいわ。」
刹那「え、でもAIってこれからもっと伸びるんじゃないの?なんで急に半導体だけそんなに売られちゃうの?」
■ 一週間の値動き
7/13 キオクシア、一時10%超下落。TSMC・ASMLの決算を控えて様子見売り。
7/16 ナスダック100は小幅安。半導体・メモリー関連が売られる一方、大型テックは堅調。
7/17 SOX指数、高値から▲20.2%で弱気相場入り。エヌビディア・インテル・マイクロンなど主力銘柄が軒並み急落。そしてキオクシアのストップ安
史郎「不思議なんだよな。TSMCの決算自体は悪くなかったはずなんだ。7月16日発表の決算で、2026年の設備投資額を600億〜640億ドルに上方修正してる。前年比1割近い増額だし、アリゾナ工場にも追加で1000億ドル投資するって発表してた。6月の月次売上は前年比67.9%増で過去最高。CEOは『AI需要は2030年まで強固』って言ってるのに…」
獅王がグラスを置いてニヤリと笑う。
獅王「史郎、そこがミソやねん。ファンダメンタルズと株価は別物やっちゅうことや。TSMCの数字はむしろ強かった。せやのに株が売られたんは、市場がもうその『強さ』を織り込みすぎとったからなんや。信用買いが増えて需給が悪化したのも大きな一因。期待値のハードルが天井まで上がっとる状態で『期待通り』の決算が出ても、材料出尽くしで売られる。よくあるパターンやで。」

刹那「あー、それ聞いたことある!『噂で買って事実で売る』ってやつだよね?」
獅王「せや、刹那ちゃん、ようわかっとるやん。しかもな、来週はアルファベット、マイクロソフト、アマゾン、メタっちゅうビッグテック4社の決算が控えとる。ここでAI投資が実際に『儲かってるんか』を市場が値踏みするタイミングやから、みんなポジションを軽くしとるっちゅうわけや。」
史郎「でも需給面は逼迫してるはずだよな。メモリーとかHBMとか。」
獅王「そこも面白いとこやで。DRAMやHBMは今、構造的な供給不足なんや。AIサーバー向けの高帯域メモリの需要が、サムスンやSKハイニックス、マイクロンの増産ペースを超えて伸びとる。TrendForceは2026年第3四半期のDRAM価格が前四半期比13〜18%、NANDが10〜15%上昇すると予測しとるし、UBSはDRAMが32%上がるいう強気予想まで出しとる。日本のAI半導体関連も今後拡大する需要に追いつかない見込み(値上げに直結する)の企業が多い。」
刹那「そんな状況なのに、なんで株は下がっちゃうの?」
獅王「ええ質問やな。ここからは俺の妄想やけど聞いてくれるか。」
史郎(また始まった…)と苦笑しつつ、黙って耳を傾ける。
獅王「この半年、メモリーメーカーは『値上げすればするほど儲かる』状態が続いとった。せやから機関投資家が先回りして買い漁り、SOX指数はわずか3ヶ月で2倍以上に跳ね上がったんや。そらも、AIバブルの権化やったわ。そこに火をつけたんがイラン情勢の緊迫化や原油高、そしてFOMCを控えた思惑売りや。需給が逼迫してること自体は間違いない。せやけど、株価はその『逼迫』をとうに織り込んで、さらにその先の先まで買い進んどった。しかも信用買いの高値掴みトレーダーも多数・・。だからちょっとでも風向きが変わったら雪崩が起きる。まるでコップに水を注ぎ続けて、表面張力ギリギリのとこに、小石を一個投げ込んだような状態や。こうなると暫く反転は難しいかもな。」
刹那「表面張力、なるほど、わかりやすいかも!」
獅王「せやろ。おっと、いつもの妄想が過ぎたわ。忘れてくれ。」
史郎「じゃあ獅王、今後はどうなると思う?このまま下がり続けるのか?」
獅王がホッピーを一口飲んで、少し真顔になる。
獅王「短期は荒れるやろな。来週のビッグテック4社の決算で『AI投資に見合うリターンが出てるんか』を市場が厳しくチェックするから、そこでコケたら追加の下げがあるかもしれん。せやけど中長期的には需要の実体は消えとらん。TSMCの受注残もHBMの逼迫も本物や。押し目は押し目として、いずれは買われる場面が来ると俺は見とるで。」
刹那「じゃあ、今は慌てて売らなくていいってこと?」
獅王「それは自分で判断せなあかんとこやけど、ファンダメンタルズが崩れてへんのに、テクニカルだけが弱気相場入りしとる今の状況は、俺は『調整』であって『崩壊』やないと見とる。もちろん、来週の決算次第では話が変わるから、そこはちゃんと確認してからやな。」
史郎「なるほどな。感情に流されず、決算とガイダンスを見てから判断する、か。」
刹那「史郎さん、なんか今日はいつもよりしっかりしてるね!」
史郎「刹那、それ褒めてるのか?」
獅王が豪快に笑いながら、三人分のホッピーを注文する。
獅王「ええやんええやん。相場が荒れとる時こそ、こういう立ち飲み屋でぐだぐだ話すのが一番や。さ、次のホッピー行くで!」
三人は狭いカウンターで再び乾杯した。
来週発表されるビッグテック4社の決算は、果たしてAI半導体相場に安心感を与えるのか、それとも更なる調整の引き金になるのか。

第87話に続く
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